Dragon Quest 3 − Togethe −

― ぬいぐるみ ―

   

宿屋も経営している食堂に、似つかわしくない匂いが漂っていた。

   

   

   

匂いの元を確かめようと食堂に足を踏み込むと、
「あっ、ラヴィちゃん。」
食堂のカウンターの向こうからアリスが声をかけてきた。

昼下がりのこの時間、食堂に人は少ない。

「何をやってるんだ?」
客であるはずのアリスがカウンターの中にいることに疑問を感じ問うと、
「うん、実はね・・・」
そこへ、
「アリスちゃーん、焼けたわよー。」
と奥の調理場から女将の声が聞こえた。
それにアリスは「わっ、すぐ行きます。」と応え、
「ラヴィちゃん、ごめんね。ちょっと待ってて。」
とアリスは慌てながら奥の調理場に入っていった。

とりあえず近くの椅子に座る。

すると、
「この匂いはなんですか?」
と食堂から部屋に続く階段からイルが姿を見せた。
寝ていたのかいつも以上に髪が跳ねており、目を手の甲で擦っていた。

「あっ、ラヴィさん、おはようございます。」
オレに気付いて深々とあいさつをするイル。
「おはようって、もう昼過ぎだぞ。」
「本を読んでいたら明け方になったんです。」

それで今まで寝てたってことか・・・。

イルがオレの向かいのイスに腰を下ろすと、
「あっ、イル。おはよう。」
とアリスが奥から戻ってきた。
「アリスちゃん、おはようございます。」
「イルの分のごはん、残してもらってるからすぐ持ってくるね。」
「ありがとうございます。」
イルとそんなやりとりをしながらカウンターから出てきたアリスの手には、
「アリスちゃん、それはチーズケーキですか?」
「うん。」

どうやら匂いの正体はこれだったみたいだ。

「お昼前からね、調理場を借りて作ってたの。」
とアリスはチーズケーキをオレの前に置いた。
「ラヴィちゃん、チーズケーキは大丈夫だったよね?」
「あ?あぁ・・・。」

甘いものはあまり得意ではないが、チーズケーキだけは食べれた。
けど・・・

「急にどうしたんだ?」
そう聞くとアリスの動きは止まり、
「・・・やっぱり覚えてなかったんだ。今日、ラヴィちゃんの誕生日だよ。」
「・・・・・・。」
「そうなんですか?ラヴィさん、おめでとうございます。」

もうそんな時期だったか・・・。
どうやら旅に出てから日付に疎くなっていたみたいだ。

「切り分けるね。」
とアリスはチーズケーキをテーブルに置くと一緒に持ってきたナイフで切り分けていった。

「チーズケーキって冷やすとおいしいけど、焼きたてもおいしいよね。」
とイルと話すアリスに、
「悪いが、戻ってから貰うことにする。」
とオレは席を立つと、「えっ?」と驚き止まるアリスと何か言いたそうなイルを食堂に残し外に出た。

   

   

   

外に出て向かう先は店が並ぶ商店街。

   

アリスに今日がオレの誕生日だと聞くまですっかり忘れていたが、
オレはアリスの16の誕生日に何もやっていない。

去年も何もやっていないが、16は成人と認められる人生の節目だ。
今更だが、何かやったほうがいいだろう。

   

   

   

「おっ、ラヴィじゃん。どうしたんだ?1人で。」

めぼしい店はないかと歩いているとカルトに出くわした。
いつものように声をかけたのだろう、カルト好みの女を連れていた。
「あら〜、いい男v」
と女が言うと、
「あー、こいつはダメだぜ。すでに予約済みだからな。」
「そうなの〜?残念ねぇ〜」

何が予約済みなんだ。

「で、どうしたんだよ?」
とカルトは最初と同じ言葉を繰り返したが、オレは無視して足を進めた。
カルトが関わるとろくな事がない。
「おい、ラヴィ。」
当然のように抗議の声を上げるカルト。しかし無視。
すると横にいた女が、
「女の子へのプレゼントでも買いにきたのかしら。」
「まぢ!?・・・あっ、アリスちゃんへのプレゼントか。よし!そう言うことなら手伝ってやるぜ。」
「あら〜、おもしろそうね〜。」
女まで便乗してきた。

・・・頼むからついて来るな。

   

   

   

結局カルトと女がついてきて3人で商店街を歩く。

   

「やっぱプレゼントといったら装飾品だよな。」と言うカルトに、
「それならお勧めの店があるわ。」と女の案内でやってきた一軒の店。
中に入ってみると、そこ等中に装飾品が飾られていた。

この町一番の品揃えが自慢らしい。

が・・・。

とりあえず近くにあったのを手に取る。
銀細工で出来たロザリオ。
細工が細かくて凄いと思うが、僧侶が着けるものだろと元に戻す。
その隣にあった金のネックレスを手に取る。
が、アリスには似合わないだろう。
元に戻す。

「なぁ、ラヴィ、これなんかどうだ。」
とカルトが持ってきたのは銀の髪飾り。
「アリスの髪の長さじゃ無理だろ。」
そう言うとカルトは渋々ながら元に戻しに行った。

そしてまたオレは近くにあったのを手に取る。
小さ目の赤い石がついたブレスレット。
するとカルトがやってきて、
「おっ、それいいじゃん。それにしろよ。」
「・・・腕を振り回したら抜け落ちそうだな。」
「じゃ、こっちは?」
とカルトはその横にあった同じタイプのネックレスを手に取った。
「・・・どっかに引っ掛けそうだ。」
オレは持っていたブレスレットを元に戻すと店を出た。
「おい、ラヴィ?」
カルトも女と共に店を出て追いかけてきた。

   

いまいちアリスに装飾品が結びつかない。

   

横を歩きながらカルトが、
「女の子なんだから欲しいと思うんだけどな。それに、アリスちゃんも16になったんだぜ。そろそろ装飾品で身を飾っていもいいんじゃね?」
「旅してる間は邪魔になるだけだろ。」
「あら〜、そんなこと関係ないわよ〜。女の子ならいつだって着飾っていたいものよ〜。」
「そうだよな。ラヴィってばほんと乙女心のわからないやつだな。」

・・・勝手に言ってろ。

   

   

少し行くと雑貨屋についた。
店内に入ると、思ったとおりファンシーな店だった。
後から入ってきたカルトも、
「まぁ、こっちのがアリスちゃんて感じはするけど・・・。」
「ふふっ、かわいらしい彼女なのね〜。」
「妹だ。」

   

店内を一望する。
ぬいぐるみが多い店だということはわかった。

そういえば、アリスの部屋にもぬいぐるみがたくさんあったな。
旅に出るから全部置いてきただろうが。

天井から鈴生りにぶら下がっている小さいうさぎのぬいぐるみを手に取った。
キーホルダーになるのか首の後のあたりに紐が輪になってついている。
アリスの部屋に飾られているぬいぐるみのほとんどがうさぎだったのを思い出す。

すると店員が、
「それ、今日入荷したばかりなんですよ。若い女の子に人気ですぐに売り切れるんです。中に守りの石が入ってるからお守りになるんですよー。」
商売巧みに話す店員の言葉に、実際売れてるかどうか疑問に感じるが、
「・・・これを包んでくれ。」
「はい、まいどあり〜。」

装飾品よりはこっちのがアリスに合うだろう。

   

   

女の子向けのラッピングされた商品を受け取って、代金を払い店を出る。
宿に戻る途中、カルトは女と別れ、オレはカルトと共に宿に戻った。

   

   

   

カランと扉につけられた鈴がなる。
「あっ、ラヴィちゃん。」
真っ先にアリスがオレに気付くが、
「・・・おかえりなさい。」
その表情は珍しく暗かった。
「おかえりなさい、ラヴィさん。どこに行ってたんですか?」
棘のある口調のイルは頬を膨らませていた。

いきなり出て行ったことを怒っているのだろうか。

「まぁまぁ、イル。ラヴィにもいろいろあんだよ。」
とオレの後から入ってきたカルトがイルにそう言った。
「・・・いろいろってなんですか?」

オレは2人に構わずアリスの前にたどり着くと、さきほど雑貨屋で買った小さなうさぎのぬいぐるみを差し出した。
「ラヴィちゃん?」
アリスはわけがわからず、オレとぬいぐるみを交互に見た。
「何もやってなかったからな。・・・16の誕生日に。」
「えっ!?・・・あたしに?・・・貰っていいの?」
アリスは驚いた表情でそろそろっとぬいぐるみを受け取った。
「・・・うさぎ、好きだったよな。」
「うん。・・・ありがとう、ラヴィちゃん。」
満面の笑みを浮かべぬいぐるみをぎゅっと握り締めるアリスに、
「アリスちゃん、よかったですね。」
さっきとは一変してイルの顔には笑顔が浮かんでいた。
「うん。・・・あっ、ラヴィちゃん、チーズケーキ・・・」
「あぁ、貰うよ。」
「すぐ持ってくるね。」

冷やしてあるのだろう、アリスは厨房へと走っていった。

アリスが厨房に入っていくとイルが、
「もうラヴィさんもそういうことなら言ってくれればいいのに。」
「なんとなーく、察しはついたけど、まぁ、いいじゃんか。アリスちゃんも喜んでたんだから結果オーライだろ。」
膨れるイルを宥めるようにカルトが言う。
「そうですけどー。」
とイルはまだ不服そうだ。

   

「お待たせー。」
と機嫌よくアリスは戻ってくると切り分けたチーズケーキの小皿をカルトとイルの前に置き、
最後にオレの前に置くと、
「ラヴィちゃん、・・・えっと、18歳のお誕生日おめでとう。」
「・・・あぁ。」

改めて言われると変な感じだ。

「これでラヴィが最年長だな。」
「次の誕生日はカルトさんですか?」
「俺?俺は永遠のセブンティーンだぜ。」
「・・・ふーん、そうですか。・・・さっ、アリスちゃんのチーズケーキ頂きましょう。」
「ちょっ、スルーするなよイル。」
馬鹿なカルトは放っておいて、オレもチーズケーキを口にする。
冷えてしっとりとしたチーズケーキが口の中でふわっと広がる。

アリスのチーズケーキを食べるのは久しぶりだが、
アリアハンに居たころに食べたのと変わらぬおいしさだった。

「ラヴィちゃん、どうかな?おいしい?」
「あぁ。」
「えへへ、よかった。」
と笑うアリスに、今度は焼きたてを食べようと思った。

   

   

   

後日、オレのあげたうさぎのぬいぐるみは
アリスの巾着袋にぶら下がっていた。

   

あとがきまがい

作者の陰謀が炸裂しました(笑。
ラヴィちゃん、18歳おめでとう。
これでラヴィ×アリスの萌え度アップです(謎

補足
カルト好みの女=美人です。
が!ラヴィちゃんには美人という認識がありません。(日本語変)
なぜなら、いつも隣にアリスちゃん(美少女)がいるからです。
ラヴィちゃんの中ではアリスちゃん=普通です。
パンピーにしたら迷惑な話だ・・・orz

2008.03.03

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