Dragon Quest 3 − Togethe −

― 熱砂 ―

   

「ひゃどー」

相変わらず気の抜けたイルの声が辺りに響くと、

ぱきんっ

と氷の塊がかえんムカデに命中した。
どうやら特訓の成果は出ているみたいで、前に比べると多少威力が上がっているみたいだ。

冷気に弱いかえんムカデはイルの魔法に動きが鈍り、そこへすかさずカルトの回し蹴りが炸裂する。
そして止めとばかりにアリスが剣で貫いた。

   

「あんたら、なかなかいい連携するな。」

塵と化すかえんムカデを見ながらキャラバンの頭がオレの横に立って感心していた。

   

   

   

イシスに向かうには広大な砂漠を超える必要があった。
しかしオレ達が単独で足を踏み入れれるほど砂漠は甘くない。
そこで、アッサラームとイシスを行き来しているキャラバンの護衛を引き受けたのだが、

   

   

   

「なぁ、ラヴィ、いいのかよ?」
「何がだ?」

キャラバンが率いる馬車の1つにオレ達は乗せてもらっていた。
砂漠の昼間は外にいるだけで体力が奪われる。そのため、移動する間は幌の中に乗せてもらっているが、魔物が出ればすぐさま外に出て戦闘だ。
キャラバンの連中も闘えない事はないが、荷物を守りながらでは満足に闘えないのだろう。
だからオレ達みたいな旅の人間を護衛に雇うのだろう。

「なーんかアリスちゃん、キャラバンの連中に気に入られたみたいだぜ。」

幌の奥、キャラバンの人間数人にアリスは囲まれていた。

「助け出さなくていいのか?」

カルトは何を心配しているのか。

「イルも一緒だ。それにアリスが困っているわけじゃない。」
アリスの横にはイルの姿もある。
何を話しているのかしらないが、楽しそうにしているのに助ける必要はあるのか?
そう言うとカルトは納得いかない顔をして、
「そういうものかね。・・・ラヴィってほんとにクールなのな。」
カルトはそれっきり黙りこくってしまった。

一体なんなんだ?

   

   

   

太陽が西の山に差し掛かる頃、夜営の準備が始まった。
砂漠の夜は昼間からは想像つかないほど冷え込むらしい。

キャラバンの夕食に混ぜてもらいあらかた食べ終えた頃、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。

オレはキャラバンの連中が勧める酒を嗜んでいた。
この地方特有の度の強い酒らしい。砂漠の冷気に反して身体がほどよく火照る。
「へー、この酒を呑んで酔わないなんて、あんた強いんだな。」
オレのグラスに酒を注ぎ足しながら男が言う。
オレと同じ量の酒を呑んでるこの男も人のこと言えないと思うが。

グラスに口をつけながらアリス達の方に目を向けると、昼間と変わらずイルと共にキャラバンの連中に囲まれていた。
男女混合で面白い話をしているらしく、時折笑い声が聞こえてくる。

「ラヴィが呑んでる酒はなんだ?おいしいのか?」
カルトが女を連れてオレの横に座った。
こいつはこいつでどこに行っても相変わらずだ。

「これはやめとけ。強すぎる。」
オレの手からグラスを奪おうとするカルトを止める。
カルトも酒は呑むがそれほど強いわけではない。せいぜいグラスに一杯飲むぐらいだ。
「なにをー、ラヴィに呑めて俺に飲めないわけないだろ。」
とカルトは無理やりオレの手からグラスを奪った。

実はこいつ、酔っているのか?

度の強い酒をカルトは一気飲みした。それに女たちがキャーと喜んで拍手をする。
どうやらオレは静かに呑めないらしい。

手持ち無沙汰になったオレは何気なく視線をアリスの方に向けた。
しかし、先ほどまで笑ってそこに居たアリスの姿はなかった。
どこに行ったんだ?と周りを見渡すが、見える範囲にアリスの姿はない。

そう遠くに行くはずはないだろうが・・・

これが町の中とかなら心配することもないのだが、得体の知れない砂漠、何があるかわからない。
オレは立ち上がると脇に置いてあった外套を羽織った。
「ラヴィ、どこ行くんだよ?」
とカルトが絡んでくるが無視してその場を離れた。

   

   

   

キャラバンの夜営地から少し離れた場所にアリスはいた。
寒いのか手をすり合わせて一心に空を見つめていた。

「どうしたんだ?」
そう声をかけるとアリスは驚いて振り返った。
「わっ、ラヴィちゃん。」
アリスの横に並びどうしたんだと同じ言葉を言うとアリスはまた空を見上げて、
「うん、砂漠の空ってキレイだなって。」
同じように空を見上げる。
空気が澄んでいるのだろう。星がはっきりと見えた。
こんな風に空を見るのは久しぶりかもしれない。
しかもアリスと一緒に見るのはそれこそ子どもの時以来だろう。
「ねっ?キレイでしょ?」
「そうだな。」
同意するとアリスは嬉しそうに笑った。

しかしすぐさま、

「くしゅんっ」
くしゃみをしたアリスは照れ笑いを浮かべ、
「夜ってほんと寒いんだね。」
「そんな格好で歩くからだ。」
外套を羽織らずに来たら寒いのは当たり前だろう。
「もう戻ろ?」
と言うアリスは野営地に足を向けかけたが、

   

バッ

   

「わっ!?」

   

オレは自分の外套でアリスを包んだ。
「ら、ラヴィちゃん!?」
驚きと戸惑いの声を上げるアリスの身体は夜の冷気に冷え切っていた。
昔からアリスは小柄だったが、こうしてみるとやっぱり小さいと思う。
こんな小さな体で父親の後を継いで魔王を倒そうとする力はどこから来るのか・・・。
「えっと・・・・・・。」
腕の中に収まったアリスは身体を強張らせながらも、
「ラヴィちゃん?」
「どうした?」
「もしかして酔ってる?」
「いや。」
いや、実は酔っているのかもしれない。
けれどそんなことはどうでもいい。
ただ、酒で火照った身体にこの夜の冷気はちょうどよかった。
もう少しここに居てもいいと思う。
それに、戻ればまたカルトがうるさいだろう。

   

   

しばしお互い無言のままでいると、
「アリスちゃーん、上着忘れてますよ。風邪引いちゃいますよ。」
とアリスの外套を手に馬車の陰からイルが姿を現した。
「イ、イル!?」
上ずった声でアリスはオレの腕から抜けるとイルの元へ駆けていった。

「アリスちゃん?顔赤いですよ?大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。」
とアリスはイルから外套を受け取るとすばやく着込んだ。
その様を見ていたイルは、
「あっ、ラヴィさん。」
とオレに気付き、オレとアリスを交互に見比べると、
「もしかしてイル、邪魔しちゃいましたか?」
「えっ!?そ、そんなことないよ。」
慌てて首をぶんぶんと横に振るアリス。
「でも・・・。」
と何故か申し訳なさそうにするイル。

これ以上ここにいたら本当に風邪を引くだろう。

オレは2人に近づくと、アリスの頭に手を置き、
「戻るぞ。」
と先に野営地に足を向けた。

   

すぐに2人も戻ってくると思ったのだが、2人が戻ってきたのは少ししてからのことだった。

   

あとがきまがい

ラヴィは酒を呑んでてもクールだな。
でも多少は思考回路がずれるってことで。

ホントはカルトくんが活躍するはずだったんだけど・・・
まぁいいか。
やつはお笑い担当だ(ヒドイ

ちょっと触発されてラヴを少し入れてみました(クスクス
どうでしょうか?

2007.12.18

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