Dragon Quest 3 − Togethe −

― 魔法を唱えた! ―

   

「めらー!」

   

イルの気の抜けた声が辺りに響き、手のひらから火球が生まれる・・・・・

   

しゅぼっ

   

・・・・・・はずだった。

   

「・・・・・・。」
「あっ・・・。」
「なぁ・・・・・・。」

手のひらから生まれたのは少量の煙。

わずかな煙が消えるのを眺めながらカルトが、

「メラって火の魔法の基本・・・だよな?」
カルトの言葉にイルは「うううっ・・・。」と悔しそうに口元を歪ませた。

   

   

アリアハンを出てそれなりに戦闘をこなしてきたけれど、まだまだ危なっかしいアリスとイルの特訓をしようと、4人で街の外の開けた場所にいた。

   

   

「次、アリス。」
「あっ、は、はいっ。」
返事をしたアリスは緊張した面持ちでイルと場所を交替する。

手のひらを前に突き出して集中し始めたアリスの周りの景色が歪む。
足元の草花がアリスから逃れるかのように茎を反らせ、

「メラっ」

アリスの力ある言葉が辺りに響くと手のひらから、

   

ぽっ

   

火が出た。

「わっ、出た。」
火が出たことに当人が驚いている。
「アリスちゃん、すごーい。」
と煙しか出せなかったイルが拍手をして感嘆した。
「なぁ、ラヴィ・・・。」
カルトはポリポリと頬をかき、
「メラって、火球・・・だよな?」
と不安そうに事実を確認してくる。

アリスの放ったメラはろうそくに灯したぐらいの大きさでしかなかった。

   

   

「お前らな・・・。」
メラは攻撃魔法の初歩なんだが・・・
あまりな結果に思わず呆れてしまった。
「そんなんで、どうやって魔物が倒せるんだ?そんなんじゃスライムだって倒せないぞ。」
「むっ、スライムは魔法使わなくても倒せます。ねっ?アリスちゃん。」
「うっ、うん・・・。」
オレの言葉に反論するイルはアリスに同意を求めた。
「あのな、今は魔法で倒せるかって言ってるんだ。・・・特にイル、お前は魔法使いだろ。」
黒いローブに三角帽子をかぶるイルは見た目は立派な魔法使いだ。
その魔法使いのメラが火も出ないというのは問題だろう。
「さ、3回に1回は成功します。」
オレの言葉にイルはなお反論する。

・・・魔法使いがそんな博打でどうする。

   

   

この先、旅を続ければ魔物も強くなってくるに違いない。
そう思っての特訓なんだが・・・

「じゃぁ次、・・・イル、ヒャドは使えるか?」
「はい。それなら得意です。」
自身満々に言うイルはトテトテッと前に出て、意識を集中し始めた。
メラが使えなくてもヒャドが使えれば、そっちを中心に攻撃すればいい。
そう思っていると、

「ひゃどー」
やはり気の抜けた声が辺りに響き、

   

ぱきんっ

   

と氷が出現する。

「イル、すごーい。」
アリスが感嘆の声をあげる。
「・・・・・・。」
オレは頭が痛くなった。

イルの作り出した氷はコップに入れるぐらいの大きさしかなかった。

   

こいつら、ほんとうに大丈夫なのか?

   

   

   

「なぁ、そろそろ昼飯にしねぇ?」
切り株に腰を下ろしていたカルトの言葉に空を見上げると、太陽はちょうど南の空にいた。
昼時だと知ると急に胃が空腹を訴えてきた。
「じゃ、街に戻るか。」と言うとカルトが、
「どうせ昼食ったら続きするんだろ?材料もあるんだしここで自炊してもよくね?」
「・・・・・・お前、自分が当番じゃないからそう言うんだろ。」
「俺はこの街の料理よりラヴィが作った方が食いたい。」
「・・・・・・。」
ちなみに今日の食事当番はオレだ。
ってか、男の料理が食いたいって・・・。
「この街の料理ってなんだかクセありますよね。イルもこの街の料理よりラヴィさんの料理が食べたいです。」
カルトの言葉に補足するようにイルが続く。
決してまずかったというわけではないが・・・・・・。
チラッとアリスに目を向けると、目が合ったアリスが、
「あ、ラヴィちゃん、あたし手伝うよ。」
「・・・・・・あぁ。」
オレが作るのか。

   

   

   

川で汲んできた水をいれた鍋を火にかけ、ダシと細かく切った肉と野菜を鍋に放り込む。
「アリス、塩を取ってくれ。」
「はい」
味を見ながら受け取った塩を少しづつ加え、
「・・・こんなもんか。」
とスープ皿によそう。それを、
「アリス」
パンの用意をしていたアリスを呼び渡す。
「はい」とアリスがスープ皿を受け取ろうとしたとき、

ガシャンッ

「きゃっ」
「大丈夫か!!」
受け取り損ねたアリスの足に皿の中身が降りかかった。
その事態にカルトとイルも慌てて寄ってきた。
「アリスちゃん、大丈夫か?」
と聞くカルトに「大丈夫」と返すアリスだが、熱い皿の中身が全てかかったんだ。大丈夫なはずがない。
心配そうにアリスを覗き込むイルにオレは、
「イル、ヒャドだ。」
「はいっ」と返事するイルはすぐにヒャドを唱えた。

パキンッ

と氷の塊が出現する。
その大きさにオレは疑問を感じたが今は後回しだ。
すぐにナイフを取り出し柄で氷を砕き細かくしたのを布に包みアリスの足にあてがう。
突然の冷たさに顔を顰めるが、されるがままに見ていたアリスが、
「ラヴィちゃん、ごめんね。」
と謝ってくる
「お前は自分の心配をしろ。」
火傷したのはアリスだってのに・・・。

   

   

全面的に冷やした後、
「あとはホイミでいけるか?」
と氷をアリスから離すと、アリスは「うん」と頷き魔法のために集中する。

「ホイミ」

手をかざした場所が淡い光に包まれ、火傷の痕がみるみる消えていく。
そのことにオレは安堵の息をもらした。
傷が絶えない生活をしてるとはいえ、火傷のような痕が残るのは忍びない。
「へー、やっぱりアリスちゃんのホイミは確実だな。」
何度もアリスのホイミに世話になっているカルトが感嘆の声をあげる。
メラは雀の涙だったが、昔からホイミだけは僧侶並の威力があった。

つまりアリスは攻撃魔法より回復魔法の方が得意ということか。
それなら今後アリスは魔法攻撃より剣での攻撃に徹した方がよさそうだな。
魔法は使えるにこしたことはないが。

   

   

   

昼食を再開して、オレはさっき気づいた事を口にする。
「イル、さっき普通にヒャド使えていたが、3回に1回のやつだったのか?」
「えー?ヒャドは失敗しないですよ?」
オレの言葉にイルは「何言ってるんですか?」と首をかしげた。
じゃぁ、昼前のはなんだったんだ?と思うオレにアリスが、
「戦闘の時はいつもあんなんだよね。」
「・・・戦闘の時は?」
ってことは・・・。
オレの考えていることがわかったのかカルトが、
「切羽詰った状態じゃないときちんと魔法が発動しないってことで、他じゃたいした力が出せないって・・・。火事場の馬鹿力ってやつか。」
そういやイルはアリアハンの学校で落ちこぼれのクラスだったな・・・。
魔物相手じゃないから試験でも成果が出せなかったのか。
「イルはきっと大器晩成なんですよ。そのうちラヴィさんが腰を抜かすぐらいにすごい魔法を覚えちゃいますよ。」
と何故か楽しそうにイルはそう宣言した。
そんなイルにアリスが「イル、すごーい。」と歓声の声を上げる。
本当にそうだといいんだが・・・。
「期待しておくよ。」
とオレはイルにそう返した。

   

・・・じゃぁ、メラも戦闘でなら3回に1回でもきちんと使えるのか?

ふと、そんなことが頭を過ぎった。
が、それは今度の戦闘で確かめればいいか。

しかしこの旅、前途多難なのか未来は明るいのかいまいち判断がつかないな・・・。

   

あとがきまがい

今回はイルのお話。
ラブがない・・・orz

アリスの「ラヴィちゃん、ごめんね。」が口癖になってきた。

2007.08.22

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