Dragon Quest 3 − Togethe −

― 盗賊と鍵 ―

   

「盗賊の鍵?」

   

   

   

16歳の誕生日の日、アリアハン王へ旅立ちの許可を貰いに行ったアリスがルイーダの酒場に顔を出したのは昼を過ぎた頃だった。

長かった黒髪をばっさりと切ったアリスは額に青い石がはまったサークレットをつけ、普段とは違う旅装束を身に付けていた。
それを見たカルトの開口一番は、
「うんうん。長い髪もかわいかったけど、短いのは短いのでかわいい。うんうん。」
と一人満足するカルトにツッコム気にはなれなかった。

   

「うん。なんかね、アリアハンから出るのに北東にある旅の扉を使うみたいなんだけど、そのためには魔法の玉を手に入れなきゃいけないみたいで、魔法の玉を貰うには盗賊の鍵が必要なんだって。」
指を折りながら今しがた聞いてきた情報を思い出すように口にしたアリスに同じテーブルにつくカルトが、
「で、その盗賊の鍵ってのはどこにあるんだ?」
そう聞かれ困った顔をするアリスはオレに目を向け、
「ラヴィちゃん知ってる?」
「何故、オレに聞く?」
「ラヴィちゃんは盗賊さんだから盗賊の鍵の話聞いたことないかな?」
盗賊の鍵の話は噂程度に聞いたことはあるが・・・
「ナジミの塔に住む老人が大盗賊バコタから鍵を奪ったとは聞いたことがあるが、それが盗賊の鍵とは限らないぞ。」
「大丈夫。きっとそれが盗賊の鍵だよ。取りに行こっ。」
何を根拠に大丈夫というのかわからないが、他にそれらしい情報がないのも確かだ。
「でも、ナジミの塔ってあの内海に建ってるやつですよね?どうやって行くんですか?」
そう聞くのはアリスの横に座るイル。
イルはオレンジの髪が肩で跳ね、黒いマントに黒い三角帽子をかぶった典型的な魔法使いスタイルをしていた。
・・・どうでもいいが、こいつら旅に出るってんで服を新調したな。
「そっか。イルは行ったことないんだね。」
魔法の勉強のため、イルはあまりアリアハンの街から出たことがないらしい。
そんなイルにアリスが簡単にナジミの塔への行き方を説明した。

「じゃ、早速ナジミの塔に行くか。」
と声を上げるカルトにアリスとイルが頷き席を立つ。
そしてカルトとイルが出口に向かうのを見てからオレも席を立つとアリスがオレに振り返り、
「ラヴィちゃん、ほんとに付いてきてもらっていいのかな?」
「しつこい」
「うっ、ごめん。」
オレがアリスの旅に同行するのはこの酒場の女主人ルイーダの陰謀だ。
オレが旅に同行すると知った時、アリスは驚き何度もそう聞いてきた。
が、オレも策略にはめられたからといって、そこで「行かない」とは言えない。
言えばルイーダからの報復が目に見える。
まだ何か言いたげなアリスに「行くぞ」と背中を押し、店を出る前にカウンターに目を向けるとルイーダがニヤニヤしてるのが目に入った。

   

   

アリアハンの内海に建つナジミの塔を左に見ながら、内海に沿って歩いていくと岬の洞窟が見えてきた。
道中、スライムやらおおがらすのモンスターが出てきたが、脅威ではないため戦闘経験の少ないアリスとイルに倒させようとしたのだが、訓練とは違う戦闘に二人の動きはぎこちない。
見ていると危なっかしく思える。
旅をするのは初めてだから仕方ないのかもしれないが・・・。
長くなる旅だ。そのうち二人も慣れるだろう。

   

岬の洞窟はジメジメして所々がぬかるんでいた。
カンテラで明かりを作るがそれでも不十分らしく、
「きゃっ。」
と隣から声が聞こえたかと思うと腕に何かがしがみついてきた。
何かって、アリスなんだが・・・。
「大丈夫か?」
と声をかけるとアリスは「ごめんね」と謝りながら離れた。
「暗いから気をつけろよ。」
と注意を促がすとアリスは素直に頷いた。
すると前方を歩いているカルトが、
「ラヴィちゃーん。俺のことも心配してー。」
と気色悪い声を上げながら近寄ってきたから、「さっさと行け。」と足蹴にすると、
「うわっ、てめードロ足で蹴るなよー。」
と文句を言ってきた。
「ふざけるヤツが悪い。」
カルトは「くそー」と口を尖らせながら再び先を行った。
そんなカルトにカルトの横を歩くイルが、「今のはカルトさんが悪いです。」と言っているのが聞こえた。
が、何故後衛のイルが前を歩いているんだ?

   

岬の洞窟からナジミの塔に繋がる階段を登ると外が見えた。
アリアハンの街を出たのが昼過ぎ、外は既に日が暮れていた。
・・・どうりで腹も減るわけだ。
今日はこれ以上進むのを諦め、ナジミの塔で経営している宿屋へ向かった。
こんな所で経営して儲かるのか疑問だが、それは人の勝手だから敢えて何も言うまい。
4人部屋が一つしかないため、アリスとイルと同室なんだが・・・
「ラヴィ、夜中寝ぼけてアリスちゃんに手出すなよ。」
「それはお前だろ。」
とバカなことを言うカルトに一言だけ返して早々にベッドにもぐりこんだ。
初めての旅に緊張して疲れたのかアリスとイルからすぐに寝息が聞こえた。
オレも寝ようと目を瞑るが、頭が働いて眠れない。
考えるのは今は眠る幼馴染のこと。

本当に魔王を倒すつもりで旅に出るのだろうか。
幾ら一人ではないにしても決して安全とはいえない、むしろ危険の方が多い旅だ。
アリアハンを出たら引き返せなくなる。
止めるのなら今のうちだ。
と思うのだが、説得して聞くようなら最初から旅に出ていないだろう。
旅立つと決めた10年前からずっと言いつづけてきたんだ。
ならオレも覚悟を決めるしかないのだろう。
例えルイーダに嵌められたとはいえ心配なのは変わりない。
共に旅をするオレにできることはアリスを前に進ませることだ。

   

   

翌日、塔の最上階の部屋にたどり着くと一人の老人がオレ達を出迎えた。
「やっぱり来たかアリスよ。わしが見たのはお前に鍵を渡す夢じゃった。だからお前に盗賊の鍵を渡そう! 受け取ってくれるな?」
「えっ?えっ?えっ?」
捲くし立てる老人の言葉に当のアリスは戸惑うばかり。
「いいのかな?」と躊躇うアリスは仲間を振り返った。
「くれるってんだから貰おうぜ。必要なもんだし。」とはカルト。
「そうですよー。盗賊の鍵がなきゃ魔法の玉もらえないんですよね?」とはイル。
アリスは何を躊躇ってるんだ?
「この鍵を取りにここまで来たんだろ?」
「うん。・・・それじゃ、おじいさん。この鍵貰っていいかな?」
そう聞き返すアリスに老人は鍵を手渡し・・・、
「もちろんじゃ。鍵を貰ってくれる代わりにわしがお前さんを嫁に貰ってやるぞ。どうだ?」
って、おい!
「えっ?えっ?えっ?」
手を掴んで放さない老人にアリスは困った顔をする。
「まさかオルテガの娘がこんなべっぴんさんだとは思わなくてな。わしももう一花咲かせれそうじゃ。」
そのまま枯れろ。
「おい、じーさん。俺のアリスちゃんを勝手に誘惑しないでくれるか?」
・・・誰がお前のだ。
「・・・ラヴィさん、顔、怖いです・・・。」
うっ・・・。
イルに言われ、我に返る。
・・・っと鍵が手に入ったんならこんなところに長居は無用だ。
オレはアリスの傍まで行くと、未だに手をつかまれたままのアリスの手を老人から取り、
「悪いけど、先を急ぐんだ。」
とアリスの手を引いて出口に向かおうとしたのだが、アリスは「待って。」と声をあげると老人の所に戻り・・・
って、まさか老人の話を受け入れるのか?
「あの、お気持ちはありがたいんですけど、あたし好きな人がいるからおじいさんのお嫁さんにはなれません。」
ペコリと頭を下げるアリスに老人は目を丸くしている。
・・・そりゃそうだろ。冗談で言った言葉を律儀に返されたんだからな。
「ふぉっふぉっふぉ。惜しいの。わしも後50年若かったらここで諦めなんだんだが。」
・・・まさか本気だったのか?
それから一言二言返してアリスはタッタッタと来ると、「じゃぁ、行こう。」と仲間を促がした。

   

来た道を戻る最中カルトがアリスに問い掛けていた。
「アリスちゃん、さっき言ってた好きな人ってまさか俺?」
何を聞いているんだ・・・
「うん?カルトくんも好きだよ。」
そう答えるアリスにカルトは「まじで?ひゃっほーい。」と喜んだ。
「カルトさん、カルトさん。”も”なのでカルトさんが一番じゃないですよ。」
とイルが忠告するが喜びの舞とか言ってクルクル回っているカルトには聞こえていないみたいだ。
そんなカルトを見てクスクスと笑っていたアリスを見てオレもさっきの言葉を反芻していた。

16になったんだから好きなヤツの一人や二人居てもおかしくないが・・・。

いつまでもオレの後をちょこちょこついてきていた小さい子どものままじゃないんだなと気づくと少し淋しさを感じた。

   

あとがきまがい

むっ、初期設定からキャラが変わった?

一応勇♀×盗♂めざしてます。
まぁ、これ見て他のCP思い浮かばないよね?ね?ね?

できるだけキャラ全員を均等に出したかったんだけど、カルトとイル出番すくねー・・・orz

2007.04.12

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