Dragon Quest 3 − Togethe −

― 旅立ち前夜 ―

   

アリアハンの城下町。
田舎と言われればそれまでだが、さして広くも無いこの町にある唯一の酒場では、これまた広く無い店内で冒険者達がテーブルを占領している。
その中、オレは一人カウンターに座り酒を嗜んでいた。

そう、一人で・・・。

「よぉっ、ラヴィ。何辛気臭い顔で酒を飲んでるんだよ。」

一人じゃなくなった。

陽気な声とともにオレの肩を叩き隣の席に腰を下ろすと、その男−−−カルテットは長いのでカルトと呼んでいる。
カルトはこの店の女主人ルイーダに酒を注文した。
長く伸ばした黒髪を後で一つのみつあみにしたカルトにルイーダは酒を出しながら、
「あんたはいつも元気すぎるのよ。たまには落ち着いたらどう?」
胸元が大きく開いた赤い服を着たルイーダのしなやかな手から酒を受け取り、
「こんなご時世に暗い顔してたら余計、陰湿になるっつうの。」
「それもそうね。」とルイーダとカルトは陽気に笑った。

オレは静かに飲みたいんだが・・・。

年は同じといえど、性格はまったくと言っていいほど逆のカルトは何故かこうやってオレに構ってくる。
最初はうざかったが、今はそれも慣れた。
慣れって怖いものだとつくづく思う。

「それはそうと、アリスちゃんには会ったの?」
と唐突にルイーダが話し掛けてきた。
なんでだ?と目で問い掛けるが、だいたい想像はつく。
「明日でしょ?アリスちゃんが旅立つの。」
「そうだが、会ってない。」
「なんでよ。どこに行くのとかいろいろ相談したりしないの?」
「・・・なんでオレが一緒に行くことになってるんだ?」
と酒を一口。
「なんでってその為に盗賊の技術身に付けたんでしょ?」
「違う。将来旅立つのに必要だから身に付けただけだ。」
また酒を一口。
「将来旅立つつもりならアリスちゃんと一緒に旅立てばいいのに。」
「・・・・・・。」
また酒を一口。
「だいたい、あんた幼馴染でしょ。アリスちゃんのこと心配じゃないの?」
「魔王討伐の旅に出るヤツをいちいち心配していたらキリがない。」
「ふーん。そういう事言うんだ。ならそうねー。」
とルイーダは帳簿のようなものを取り出し、
「実はアリスちゃんに同行する人探してって頼まれてるのよねー。で、ここで何人か募集してたんだけど、・・・若い子がたくさんね。・・・しかも男ばっかり。アリスちゃんに下心見え見えね。」
「はーい。俺がついてく。」
とはカルト・・・って、は?
「なんでまた?」と聞くよりも先にカルトが口を開く、
「俺も美少女と一緒に旅したいから。」
「・・・魔王討伐の旅だぞ?」
「関係ないね。アリスちゃんは俺が守る。ついでに世界中の美女は俺の物〜」
「カルトが付いて行く方がアリスちゃんの身が危険ね。」
ルイーダは笑いながら意味深にオレに目を向けた。

   

アリアハンには一人の英雄がいた。
世界中にも有名な勇者オルテガ。
10年前に魔王討伐の旅に出たっきり帰らぬ人となった。

オルテガには一人の子どもがいた。
それが今、話題に出たアリスだ。
アリスは父の後を継ぎ、明日16の誕生日に魔王討伐の旅に出る。

その話を聞いた時、オレは冗談かと思った。
けれどアリスは本気だった。
父親の死を悲しむ時間も惜しんで剣の修行に励んだ。
そんな幼馴染をオレはただ見ていることしかできなかった。

   

「あと、誰が付いて行くのかしら?武闘家に盗賊・・・回復役が欲しいから僧侶かしら。」
「だから、なんでオレが一緒に行くことになってんだ?」
半眼でルイーダを睨みつけるが、
「あら?誰がカルトの魔の手からアリスちゃんを守るのかしら?・・・付いて行かないなら今日の奢りの件はなしね。」
「・・・くそっ。」
ただでさえ金欠で奢りだっていうから来たってのに・・・
行かないわけにはいかないらしい。

「イルが付いて行くみたいなこと言ってなかったけ?」
カルトが残りの酒を飲み干しながらそう言った。
「あらそうなの?でもあの子が習ってるの魔法使いの呪文でしょ?回復役欲しくない?」
「アリスちゃんだってホイミぐらい使えたっしょ?」
オレに問い掛けてくるカルト。
「・・・なんでオレに聞く?」
「アリスちゃんのことはラヴィに聞くのが早いかなっと。」
幼馴染だからって全部知ってるわけじゃない。
「・・・ホイミを使ってるところは見たことあるが。」
「なら、問題ないんじゃね?」
そう言うとカルトはルイーダに「ごちそうさん。」と言い、オレには「また明日な。」と言って酒場を出て行った。

・・・あいつほんとに付いて行く気か?

カルトが出て行った扉を見ていると、
「ラヴィ、クールなのはいいけど、そんなんじゃ女の子は不安よ?」
呆れたようにオレを見るルイーダはオレのコップに酒を足した。
「あんた、包容力はありそうだけど肝心な事は言わなさそうだもの。」
「・・・なんの話だ?」
と酒を一口。
「・・・どうせ、まだアリスちゃんに好きって伝えてないんでしょ?」
ぶはっ。
酒を噴出した。
「ちょっと、ラヴィ、汚いわよ。」
誰のせいだ!
咳き込むオレにテーブル拭きと水をだしながら、
「いくら幼馴染で、気持ち通じ合ってるって言っても女の子はきちんと言葉にしてほしいものなのよ。」
なんでそうなる!
未だ咳き込むオレはルイーダを睨むが、涙目になっているからさして迫力は無い。
「あの子美人だから他の男が寄ってくる前に、アリスはオレの物だーって宣言しちゃいなさいよ。」
「・・・・・・。」
楽しそうにそう言うルイーダには何を言っても通用しないと悟り、オレは無言で残りの酒を飲み干した。

   

あとがきまがい

趣味を詰め込もうと思います。

2007.03.12

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