生贄の勇者

   

アリアハンへと凱旋したルティア達をアリアハン王は驚きと戸惑いの表情で出迎えた。

それもそのはず、ルティアはこの旅で魔王に命を捧げることになっており、
その旅に行かせたのは他ならぬアリアハン王なのだから。

   

アリアハン城、謁見の間で王の前に跪いたルティアは
「王様、バラモスを倒してきました。」
「で、では魔王は・・・。」
未だに信じられないといった王にルティアは微笑んで、
「魔王はもういません。もう心配することはありません。」
その言葉に王は玉座から降りるとルティアの元に近づき、
「おぉ、そうか・・・そうか・・・ルティアよ、すまなかった。オルテガの娘とはいえ幼いお前にこのような過酷な旅・・・。」
頭を下げる王にルティアは戸惑いながら、
「王様、いいんです。あたしが旅に出るのは王様にとっても仕方のなかったことだから。それにあたし、旅に出てよかったって思ってます。」
「ルティアよ、本当にすまなかった。・・・ユリナもご苦労であった。」
「はっ。勿体無きお言葉。」
王宮戦士であるユリナはルティアの隣で王宮作法通りに畏まっていた。
そして王は2人の後ろで跪いているカインとキースにも、
「その方達もよくルティアに手を貸してくれた。感謝する。」
王に頭を下げられ「いや、オレは・・・」とわたわたするカインに比べ、キースは黙して目を伏せただけだった。
そして王は再びルティアに顔を向け、
「ルティアよ。この先は自由に生きるがよい。もう誰もお前に命を・・・」

その時、突然雷鳴が鳴り響いたかと思うと、

『ふはははは。・・・たかがバラモスを倒したぐらいで図に乗るとは笑止。バラモスなど我が配下に過ぎぬわ。』

重い、黒い気配が辺りを支配しました。
「な、なんだこの声は!?」
直接頭に響く声に謁見の間は騒然となりました。

『今一度勇者の娘、ロトを差し出すがよい。聞けぬというのであれば、この世界も闇に閉ざそうぞ。・・・我が名はゾーマ。ふはははは。』

「ルティア!」

声が終わると同時にキースはルティアを引き寄せました。

そこへ、

ゴォン!!!

と、突如天井から黒い稲妻が降ってくると、ルティアが居た場所に命中しました。
「ルティア!キース!」
「国王様、ご無事でしょうか?」
焦り声をあげるカインに王を背中に庇ったユリナ。
「あ、あぁ・・・わしは大丈夫だが、今のは・・・。」

突然の事に誰もが混乱している中、ルティアをカインに渡したキースが、

「アリアハン王、魔王はバラモスだけではなく、ゾーマもロト・・・ルティアを差し出せと要求しているようですが・・・。」

「な、なんと・・・。」
「なんでルティアなんだよ!」
驚愕する王。そしてキースに掴みかかろうとするカインをキースは軽く払いのけ、
「私に聞かれても困る。」

「王様・・・あの・・・。」
なんと言っていいかわからないルティアに王も困った表情で、
「ルティアよ・・・・・・いあ、今日のところは下がるがよい。」

アリアハン王は疲れきった表情で玉座を後にした。
そしてルティア達も言葉を発することなく謁見の間を後にした。

   

   

   

城と町をつなぐ跳ね橋で、
「私はここで。」
まず口を開いたのはユリナだった。
「・・・あ、そっか。・・・ユリナは王宮戦士だもんね。」
「あぁ、旅の報告書まとめて兵士長に提出しないといけないからね。」
「うん。・・・じゃ、ユリナまたね。」
と笑顔で別れようとするとルティアにユリアは厳しい表情で、
「ルティア、馬鹿なこと考えるんじゃないよ。」
「えっ?」
聞き返すルティアですが、ユリアは応えずサッと手を挙げると城の中へ引き返していきました。

「えっと・・・2人はどうするの?」
とカインとキースに聞くルティア。
「んー、オレは・・・」と考えるカイン。
キースは、ルティアの質問には答えず、
「ルティア。今夜は家でゆっくり休め。明朝、家を訪ねる。」
それだけ言うと1人町の中へ消えていきました。
「なんだ、あいつ・・・。」
「・・・・・・。」
キースが消えていった町へ目を向けていた二人。

「えっと・・・カイン、・・・・・・うちに来る?」
少し言い辛そうにそう口にしたルティア。
「・・・・・・へっ?」
ルティアの言葉がすぐに理解できなかったカインは声がひっくり返っていました。
目を見開いたカインに見つめられたルティアは慌てて、
「あの、えっと・・・ほら、宿に泊まるとお金かかるし、それならうちで・・・。ほんとはみんなをお母さんに会わせたかったんだけど、ユリナもキースも行っちゃったからカインだけでも・・・。えっと・・・。」
顔を真っ赤にして早口でそう述べるルティアがかわいくカインは、
「そうだな。ルティア似の美人なおばさんに挨拶して、ルティアをオレに下さいって言わないとな。」
「えぇっ!?」
カインの言葉に耳まで真っ赤にするルティア。
そんなルティアの背中を押して「さぁ、行こう。」とカインはルティアと共に町へと向かった。

   

   

   

家に戻ったルティアを母親は涙して喜び、共に居たカインを快く迎え入れました。
その日の夜は、ルティアの母親の料理をお腹いっぱい食べ、旅の話に花が咲きました。

   

そして深夜・・・
コンコンッとノックをして、
「・・・カイン?起きてる?」
と声をかけるとすぐに扉が開きカインが顔を見せました。
「ルティア?どうしたんだ?」
「うん、あのね・・・。」
と切り出すもすぐに言葉に詰まるルティア。
俯くルティアにカインはなんだろうと思いつつも、
「あ、一緒に寝たいとか?」
「えっ!?ち、ちがっ!」
「冗談だってば。・・・そんな思いっきり下がらなくても・・・。」
目の前にいたルティアが一瞬に5歩ほど下がったのにカインは苦笑しました。
ごめんなさいと謝りつつ元の場所に戻るルティア。
「それで?ほんとはどうしたんだ?」
と促がすとルティアは「うん、あのね」ともう一度同じ言葉を口にしてから、
「昼間、お城で・・・」
「お城?・・・あぁ、あの変な声のことか。気にすんなって。」
「えっ?でも・・・。」
「声が聞こえただけで、ルティアが気にすることないって。バラモスは倒したんだから、もういいじゃねぇか。」
「カイン・・・。」
「あっ、もしかしてあれが気になって眠れないのか?それならオレと一緒に・・・」
「あっ、うんん。あの・・・、寝るところごめんなさい。」
カインの言葉も途中にルティアは口早にそう言うと自分の部屋へと戻っていきました。
「ルティア!」
しかし、それをカインは追いかけ、
「カ、カイン!?」
カインはルティアの腕を掴むと、そのまま勢いでルティアを抱きしめた。
「あ、あの・・・カイン・・・。」
「ルティアがぐっすり眠れるおまじない。」
そう言うとカインはルティアの額に一つ口づけを落とし、ルティアを解放するとおやすみを告げ自分の部屋へ戻っていきました。

バタンと扉が閉まるまでルティアはその場を動けず、
カインの触れた額に手を当てると、そこだけ異様に熱く、

−−−カインのばか・・・余計に眠れないよ。

   

   

   

その日の夜、ルティアは夢を見た。

知らない塔の中、カイン達と一緒にこの世のものとは思えないほど美しい石像を前に立っている自分の夢を。
初めて見る石像を、ルティアはとても懐かしく感じていた。

   

   

   

翌朝、朝の支度をしていると予告どおりキースがルティアの家に訪れた。
「おはよう、キース。」
出迎えたルティアにキースは、
「カインも一緒か?」
「えっ!?あっ・・・その・・・。」
「後で2人とも町の入り口まで来てくれ。」
慌て口篭もるルティアにそれだけを言うと、キースはルティアの家から立ち去っていきました。

そして、支度を終え、キースが待つ町の入り口に足を運ぶと、
「・・・ったく、こんな朝早くから一体なんなんだい?こっちはまだ報告書が途中だってのに。」
と城の方から文句を口をしながらユリナが姿を見せました。
おはようとあいさつするルティアにユリナも返すと、
「カイン、あんた夕べ、ルティアのところに泊まったんだって?まさか、もう手を出したんじゃないだろうね?」
「なっ!?」
「ユ、ユリナ!?」
カインとルティナが同時に顔を真っ赤にするのを見て、ユリナは笑いを浮かべると、
「冗談だよ。カインにそんな度胸があるとは思えないからね。」
「なっ!?・・・ちくしょー。」
そんなユリナ達の会話もお構いなしにキースはルティアに向かって、
「ルティア、昨日、何か夢を見たか?」
「えっ?夢?・・・うん。とてもきれいな石像の夢なら・・・。」
「そうか・・・。ルティアにはこれから竜の女王に会ってもらう。」
「えっ?」
「はっ?」
「竜の、女王?」
キースの唐突な言葉に3人3様驚きの表情を浮かべた。
「竜の女王って・・・キース?」
わけがわからずキースを見つめるルティア。
「竜の女王の所まではラーミアが連れていってくれる。」
それだけを言うとキースは1人町の外、ラーミアのいる場所へ向かいました。
残ったルティアとカインとユリナはそれぞれ顔を見合わせた後、キースの後を追いました。

   

   

ラーミアの背に乗りアリアハンを立って半日ほど。
「随分と飛ぶんだね。」
落とされないようにラーミアの羽にしがみつきながらルティアは下を見下ろしました。
海を越え、広大な森を目にして、
「ダーマの方に行くのか?」
と聞くカインに答えずキースは、
「もうすぐ着く。」
そして、その言葉どおりラーミアは下降を始めました。

険しい山に囲まれた壮大な城。
今まで見てきたどの城よりも神秘的に見えました。
「こっちだ。」
ラーミアから降りてすたすたと歩くキース。
ルティア達は互いに顔を見合わせながらキースの後を追いかけました。

城の中は閑散としており、人一人居ませんでした。
窓から入る日の光を受けながら通路をしばらく歩いたのち、
「この奥に竜の女王がおられる。」
突然キースは立ち止まり、ルティアを奥へと誘いました。
「・・・キース?」
不安げなルティアにキースは何も答えず、
ルティアは一つ頷くと、奥へと足を進めました。

   

「ロト・・・いいえ、ルティア。よく来てくださいました。」
奥へと進んだルティアを待ち受けていたのは一匹の竜。
ルティアの何倍物大きさのある竜でした。
「竜の・・・女王様?」
あまりの大きさに思考が上手く働かないルティア。
ぽかんと女王を見上げるルティアに目を向けたまま女王は、
「ルティア、あなたに辛い思いをさせてしまったことをお詫びします。・・・バラモスなどカバの魔物にでかい顔をさせてしまった私の非力を許してください。けれど私には子を産み残す以外、もう何の力も残されていなかったのです。・・・ルティア、あなたの力になれないこと、本当にごめんなさい。」
「えっ・・・あの・・・もうバラモスはいないので・・・その・・・あたし1人じゃなかったし・・・。」
ルティアはきっと頭を下げたであろう女王にどうしていいかわからず慌てました。
「けれど、魔王と呼ばれたバラモスもゾーマの配下に過ぎません。」
「ゾーマ・・・昨日の?」
「本当の魔王ゾーマ・・・ヤツはルビスが納めるアレフガルドを闇に閉ざしただけでは物足りず、この世界までも闇に染めようとしています。・・・ルティア、あなたにお願いするのは酷かもしれませんが、力を貸していただけませんか?」
「えっ?えっ?えっ?」
「なんでルティアなんだよ!」
慌てふためくルティアの横からカインが口を出すと、
「ルティアがロトだからだ。」
女王ではなく代わりにキースが答えました。
「ロトだからって・・・そもそもロトってなんなんなんだよ!」
とキースに掴みかからんカインをルティアは止めようとしますが、ユリナまでもが、
「私もそれが聞きたいね。これ以上ルティアに何をさせたいのさ。」
ユリナにまで詰め寄られたキースは一度、嘆息すると、
「ロトとは、魔に対抗でき、そしてルビスを救う事ができる唯一の存在のことだ。・・・ルティアがロトなのは、ルティアの先祖がロトだったからだ。」
「ルティアはそのロトの血を引いてるってことかい?」
「あぁ、そうだ。・・・おそらくオルテガの家系がそうなのだろう。・・・魔王ゾーマにとってルビスを救うことができるロトは邪魔な存在でしかない。だからルティアは狙われたのだ。」
「・・・もしかして昨日の夢に出てきたキレイな石像の人がルビス様?」
そこでルティアは何故キースが、朝会った時に「夢を見たか?」と聞いたかわかった気がしました。
「おそらくそうだ。・・・ルビスはアレフガルドを守るため自らゾーマに捕らえられ石にされてしまった。アレフガルドはルビスの力で維持されている。ゾーマもルビスに死なれては困るから石にしたのだろう。・・・だが、石にされてしまったルビスは徐々に力を失いつつある。これ以上闇に閉ざされたアレフガルドを維持し続けるのは難しいだろう。」
「じゃぁ、ルビス様を助けなきゃ。」
『ルティア!?』
助けるのが当たり前だと言わんばかりのルティアの言葉にカインとユリナは同時に声を上げました。
ルティアの肩を掴み何か言おうとするカインより先にルティアは、
「だって、ルビス様を助けることができるのはあたししかいないんでしょ?」
「だけどルティア・・・」
「このまま放っておいたらゾーマはこの世界も闇にしちゃうんでしょ?知らないふりなんてできないよ。」
「だけどルティア・・・」
と同じ言葉しか出ないカイン。ルティアを止めたいのに言いたいことが出なくてもどかしくしてると、
そんなカインにルティアは精一杯の笑顔を浮かべ、
「それにね、ルビス様、バラモスと対峙した時、死ぬつもりだったあたしのこと助けてくれたの。みんなと一緒に生きたくないの?って。・・・だから今度はあたしがルビス様を助ける番なんだよ。」
「ルビスがルティアを助けた・・・。」
バラモスを前にして、生贄として死ぬつもりだったルティア。そのルティアが途中から生きる生きたいと初めて言った。それを思い出し、
「そっか・・・じゃ、ルビスには感謝しなくちゃだな。・・・わかった。ルビスを助けに行こう。ついでにゾーマなんてふざけたヤツを倒してやろうぜ。」
「うん。」
力いっぱい頷くルティアにユリナも、
「あんたが死ぬつもりじゃないなら、私は何も言わないよ。あんたについてってやるよ。」
「ユリナ」
「あんたを護衛するのがアリアハン王から受けた命だからね。」
そう言うユリナの顔が少し赤くなってるのはきっと気のせいではないはず。
「ルティア・・・」
それまで静かに4人を見守っていた竜の女王がルティアを呼びました。
「少しでもあなたの力になれるように・・・この光の玉をお持ちなさい。」
とルティアの前に手のひらサイズの光る玉が現れました。
「私に出来ることはこれだけ・・・。ルティア・・・どうかルビスとアレフガルドを頼みます・・・。」
竜の女王はそれだけを言うとその体は薄れていきました。
「女王様!?」
驚くルティア達。
そして女王の姿が完全に消えるとそこには両腕で抱えるほどの卵が・・・。
「この卵が時期女王だ。・・・この世界が闇に包まれてしまえばこの卵も孵らないだろう。」
キースの言葉にルティアは卵をじっと見つめると、
「・・・行こう。アレフガルドに。・・・ルビス様を助けに、ゾーマを倒しに。」

   

   

城を出た4人はラーミアの背に乗り、キースの指示でラーミアはバラモス城の東に位置する小島へとたどり着きました。
「ここ、何?」
地面にぽっかりと空いた穴を見下ろしてルティアは不安げな声で訊ねました。
「ギアガの大穴。・・・ゾーマの力でこの世界とアレフガルドが繋がりここからバラモスを送り込んだのだろう。」
そう説明するキースに不審な目を向け、
「なんだってあんたはそういろんなことを知ってるんだい?ダーマの賢者ってのはみんなそんなに物知りなのかい?」
ユリナを一瞥したキースはユリナの言葉に答えず、「先に行く。」と言うと穴にその身を投げました。
ユリナはキースが消えた穴を見つめると、「・・・ったく」と呟きながら同じように穴に落ちていきました。
「2人とも!?」
さっさと穴に消えていった二人を心配そうに見つめるルティア。
そんなルティアの横に立ち、その手を掴むと、
「オレ達も行こう。」
「カイン!?」
驚き振り向くルティアに、
「大丈夫。・・・ルティアはオレが守るから。」
「カイン」
ルティアは少し顔を赤く染めると「うん」と頷きカインの手を握り返しました。
そして2人は同時にギアガの大穴に向かって飛び込みました。

離れないようにしっかりとお互いの手を握り締めて。

   

   

あとがきまがい

ふとアレフガルド編でラブコメが書きたくなって思いついた3rdの続き。
書くのに半年かかったなんて言えない・・・
1stも2ndもろくに書けてないのに、何やってるんだ?
しかも途中まではすんなり書けたのに、最後らへんよくわかんないうちに書き終えちゃったし・・・
この先、どうするつもりだろう・・・(脳

2008.08.25

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